クリーンエネルギーへの移行は、世界の企業、政府、団体にとっては巨額の経費とリスクをもたらすグローバル規模の重大な取組みです。コスト面の懸念は最近エジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)でも各種議題の最上位を占め、実際に発展途上国からエネルギー移行に要する資金援助を求める声が多数挙がっています。
クリーンエネルギー生産や、化石燃料鍛鋼のような炭素集約型工程からグリーンな水素精錬鋼に移行する投資には、大きなコストがかかります。投資が大規模になると、常にリスクが伴います。
しかし、何もしないことが最大のリスクではないでしょうか。アトラディウスライブイベント、「クリーンエネルギーへの移行は世界の通商を前進させる新たな道となるか(Clean Energy Transition: a new way forward for global trade?)」でも、世界的な鉄鋼メーカーArcelorMittalの取引信用部長、Robert Leportier氏はこう述べています。「[各企業は]脱炭素化に向けて何もしていません。このままではいずれ持続不可能になります。たとえば石炭への依存度が高すぎる企業に明るい未来が待っているとは思えません」
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クリーンエネルギーへの移行は簡単なものでも安価なものでもないのは事実です。ビジネスコンサルティング会社マッキンゼーによれば、2050年までに実質ゼロを達成するのに必要な物理的な資産への投資は企業全体で 275兆米ドルと試算されています。この多くは民間企業の資金調達が必要ですが、多くの国では公的資金も投下されています。その一例が、日本の新たな「クライメートトランジションファイナンス」の取組みです。
ベトナム首相は昨年、石炭火力発電所の新設凍結を公約とし、国内の太陽光発電ブームに乗って2050年までに実質ゼロ達成を目標に掲げると発表しました。東南アジアのクリーンエネルギー移行を主導するのはベトナムだと、多くのコメンテイターが指摘しています。11月には、インドネシアがG20諸国と画期的な合意に達しました。この「公正なエネルギー移行パートナーシップ(Just Energy Transition Partnership: JETP)」は、インドネシアのクリーンエネルギー移行の加速を支援する目的として設立された資金面のコミットメントとなります。
ING投資銀行のGido van Graas氏は「アトラディウスクリーンエネルギー移行」イベントで、金融機関や民間投資家は明らかにクリーンエネルギープロジェクトに対する関心が高いと述べています。同氏の指摘によれば、「エネルギー移行を本気でサポートするのに十分な流動性資産がある」とし、炭素回収および電気自動車プロジェクトはすでに現実のものとなっていることを指摘しました。
同氏はING投資銀行が投資しているプロジェクトの将来を見据えながら、未来のクリーンエネルギー源として水素ガスの重要性を指摘し、かつて風力発電や太陽光発電がそうであったように、水素生成エネルギーも将来コストダウンが実現するだろうとの予測を語りました。
中国は今や、世界最大の炭素消費国であり、世界最大の炭素排出国となりました。国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国の炭素排出量は世界の三分の一を占めます。この原因は、中国の鉄鋼業界やセメント業界とのつながりが深いエネルギー業界(特に石炭火力発電所)が同国の温室効果ガス排出量の90%を占めるところが大きいです。
IEAによれば、太陽光発電が普及するペースは中国が群を抜いており、世界の電気自動車向けバッテリーの70%が中国で生産されています。中国国営放送は、新疆ウイグル自治区に世界最大の太陽光発電による「グリーン水素」生産工場を建設すると8月に発表しました。9月には、遼寧省当局から原子力、風力、太陽光、水素エネルギーによる発電所の開発計画が発表されました。2030年を目標として、6000億元規模を投下して生産能力60ギガワットの工場を建設することが計画されています。
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グリーンエネルギーへの移行は、ある人にとっては早すぎ、ある人にとってはまだ十分ではないのですが、いずれにせよ、それは実際に起こっていることであり、企業は新たなリスクにさらされるでしょうが、準備を整えている企業には新しいチャンスももたらされるでしょう。私たちは、破壊的な変化がより頻繁に起こり、より大きな影響を与える、興味深い、しかし不確実な時代に生きているようです。いつものように、準備することは報われるのです。
クリーンエネルギー生産に対する政府のコミットメントや、電気自動車のような技術のアジア全体の普及は確かに多大な投資機会をもたらします。しかし、エネルギーエコノミストであり、コロンビア大学教員でもあるChristof Rühl氏が アトラディウスパネルディスカッションで説明したところによれば、エネルギー移行とは古い石炭火力発電所を廃止して、風力タービンに切り替えるといった単純なケースではなく、エネルギー貯蔵(風が吹かなくても、曇りの日が続いても安定供給を保証できるため)や送電網にまでつなげるのにかかる大規模な投資の問題です。
同氏はまた、エネルギー安全保障の重要性も指摘しています。現在のエネルギー危機に触れながら、こう述べています。「今後はエネルギー安全保障なしには、エネルギー移行はあり得ないでしょう。少なくとも現時点では、好むと好まざるとにかかわらず、化石燃料なしにエネルギー安全保障は考えられません」
アトラディウスのリスク専門家、Dimitiri Pelckmansによれば、今のエネルギー危機とクリーンエネルギー移行は、各企業が舵取りしなければならないさまざまな地政学的な問題と何一つ違いはありません。顧客を知ること。市場を知ること。経営悪化の兆候を発見するか、倒産リスクがあると思ったら、キャッシュフローを確保する策を講じること。このアドバイスは不景気、パンデミック、エネルギー危機に各企業が直面したケースであっても何ら変わるものではありません。
Learn more at アトラディウスライブイベント、「クリーンエネルギーへの移行は世界の通商を前進させる新たな道となるか(Clean Energy Transition: a new way forward for global trade?)」
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